[SS]クマのおめでとう
とある寒い寒い国の、とある高い高い山に、一匹の白いこぐまがいました。こぐまの名前はポチといいます。額にある三日月が、ポチの目印でした。
ポチは、とても悩んでいました。なぜなら、もうすぐ大好きなおともだちの雪んこくんの生まれた日がやってくるのです。
いつも仲良くしてくれている雪んこくんに、ポチは何かお祝いをしたいと考えていました。だけど、そのお祝いの方法が、考えても考えても思いつかないのです。
そこでポチは、いろいろなところへ相談に行くことにしました。
まずは、自分のお姉ちゃんのところへ行きました。するとお姉ちゃんは、いつもはとても怖いその顔を和らげながら教えてくれました。
「それなら、何かプレゼントをあげたらどうだい?」
それを聞いたポチは、何かをプレゼントする事に決めました。だけど、何をプレゼントすればいいのか、考えても考えても思いつかないのです。
そこで、今度はおともだちの白ヘビくんのところへ行きました。白ヘビくんは、その細長い体をとぐろ巻きにして一緒に考えてくれました。
「じゃあ、そのおともだちがほしがっているものはどうだい?」
くねくねと頭をふる姿を見て、ポチは、雪んこくんがほしがっているものをプレゼントする事に決めました。だけど、何をほしがっているのか、考えても考えても思いつかないのです。
ポチは、山を下りて行きました。山のふもとの、大きなお城に住んでいるお姫さまと、そのパパに相談をしようと考えたのです。
ポチとお姫さまはおともだち。ポチとお姫さまのパパもおともだち。きっと相談にのってくれます。
そこへ向かう途中、小さな雪ウサギくんに出会いました。
そうだ、とポチは雪ウサギくんにも相談をすることにしました。雪ウサギくんは雪で出来た体をぺたんこにしながら一緒に考えてくれました。
「もらったらウレシイもの? よくわからないけど、一緒にかくれんぼしてくれたらウレシイよ」
雪ウサギくんは小さな体をぴょんぴょんと弾ませています。
ポチは、かくれんぼは出来るけど、かくれんぼをプレゼントをするのはどうすればいいのかなと考えました。ポチは雪ウサギくんにお礼を言って、再び大きなお城を目指しました。
ようやくお城についたポチは、お姫さまに力いっぱい抱きつかれました。そしてもふもふ、もふもふとアゴをなでられながら、ポチはお姫さまに相談をしました。
「貰ったらうれしいもの? そうねえ、あれもほしいし、これもほしいし……」
と、お姫さまは何やらいろいろと教えてくれましたが、ポチにはむずかしいモノばかりでした。
いったい、なにをあげたらよろこんでくれるんだろう? ポチはますますわからなくなってきます。
するとお姫さまは、ポチのまるい両耳を、細い指でつまんで広げながらいいました。
「でもね、お祝いしてくれることだけでも十分嬉しいのよ」
ポチは今度はお姫さまのパパのところへ行くと、お姫さまのパパに力いっぱい抱きつかれました。そしてぽふぽふ、ぽふぽふと肉球をつかまれながら、お姫さまのパパに相談をしました。
「その雪んこくんは、どんな子かな? どんなときに、嬉しい顔をするのかな?」
それはきっと、君の方がよく知っているよ、とお姫さまのパパは言いました。雪んこくんは、どんな子かな?
ポチはいっしょうけんめい考えました。
雪んこくんは、とてもやさしくて、とてもおとなしくて、とてもさみしんぼう。ポチが遊びにいくと、とてもとてもうれしそうに笑います。
とてもとても楽しそうにいっしょにでんぐり返りをしたり、きれいな石を探したり。
だけどポチが帰るころになると、とてもとても寂しそう。
はじめて会った日に、おうちへ帰るポチに向かって雪んこくんが言ったことを思い出しました。
──またきてくれる?
ぼくのおともだち、みんな、すぐにいなくなっちゃうんだ。
ひとりぼっちはいやだよ。ひとりぼっちはさみしいよ──
ポチも、ずっといっしょにいたいけど、日が暮れる頃にはおうちへ帰らなくてはいけません。
ポチにはお姉ちゃんがいますが、雪んこくんはひとりぼっち。バイバイから次のこんにちはまで、きっと雪んこくんはさみしい思いをしているにちがいありません。
ポチはお姫さまのパパに言いました。
「きっとみんなでいっしょに遊ぶのが、いちばんうれしいかもしれない。たくさんのおともだちをよんで、いっしょに遊ぶのはどうかなあ」
するとお姫さまのパパは「うん、それがいいね」とニッコリ笑いました。
だけどみんなが帰る時、雪んこくんはまた寂しい思いをするんじゃないかとポチは心配になりました。
するとお姫さまのパパは、いい考えがあるよ、と暖かい指でポチの鼻の頭にちょんと触れました。
そして世界は、数えて三番目“芽吹の月”になりました。
ポチは、お祝いのために、できるだけたくさんのおともだちを呼びました。白ベヒくんに、雪ウサギくん、遠くからもペンギンさんや妖精さん、他たくさんのおともだちです。勿論お姫さまとお姫さまのパパもいっしょです。
そして、みんな少しずつおしゃれをしてきました。白ヘビくんはりっぱな蝶ネクタイをしています。雪ウサギくんはすてきな耳かざりをしています。ポチも、ウサギのフードをお姫さまに着せてもらいました。
ふと見上げると、お姫さまのパパの手には四角い不思議な箱がありました。
ポチは、それはなあにとお姫さまのパパに聞くと、こうするんだよと箱についた小さなボタンを押しました。
パチリと音がして、箱から小さな紙が出てきました。
紙には、ウサギのフードをかぶって変な顔をしておどろいてるポチが写っています。変な顔、とお姫さまは笑いました。
「そうやって楽しい思い出を残せるのよ。楽しい思い出を見ていたら寂しくないでしょ?」
と、お姫さまが得意な顔で教えてくれました。ポチは、すごい、とまた変な顔をしておどろきました。
さあ、雪んこくんのいるところへみんなで出発です。
ポチは、雪んこくんが喜んでくれることを想像しました。にっこり笑っている雪んこくんを想像しました。ポチはとても幸せな気持ちになりました。
雪んこくんのところまであと少し。ポチはワクワクして、走り出したくてたまりません。白ヘビくんも体をクネクネ揺らし、雪ウサギくんもいつもの二倍高く跳ねています。
雪んこくんの姿が、遠くに見えました。ポチはとうとうこらえきれずに走り出してしまいました。
ポチの後に続いて、みんな走り出しました。
きっと楽しい一日になるでしょう。