[SS]感謝の気持ち
別に、巷の女の子たちがキャアキャア騒いでるような浮かれた気持ちでこの日を迎えたわけじゃない。
ただ、やっぱり、ほら。用意しとくべきじゃない?
前日からいろいろ理由を探して、どうすれば一番自然に渡せるかなんて考えたりして。
「ほら、アンタどうせ誰からももらえないんでしょ」
これはすぐにボツ。だって相方は、悔しいけどモテる。非常に、モテる。どうせ今年も沢山のチョコをファンの可愛い女の子たちから頂いてデレデレとかしちゃったりなんかして。
そう思うとなんかムカついてきたのは気のせいにしておこう。さあ、次!
「いっぱい用意したし、余らせるのも勿体無いし」
これもボツ。あたし、いっぱい作るほどマメじゃないって、既にバレてる。
「失敗したんだけど」
駄目、このあたしが料理で失敗するはずもない。昨日、出来上がったチョコを一つ口に放り込んだ。うん、美味しすぎる。あたし、パティシエにだってなれちゃうかも。天才! と思っちゃうほどの会心の出来だった。
じゃあ、どうしようか。いつものようにマジックに紛れさせて隠してポケットだかに忍ばせとく?
でもこれだと気付くのが2日も過ぎた後だとかいう前例もあるし。
そもそもなんであたし、チョコをあげようと思ったんだっけ?
社交辞令。そうそう、シゴト仲間だからね。一応、あげないと失礼だからね。
それだけ、のはずなんだけどなあ。何をこんなに悩んでいるんだか。
ええい、もう、面倒だ! 知らない、全部食べちゃえ!
ヤケになってあれだけ気合入れて丁寧に包んだ紙もビリビリと豪快に破る。足元に無残な紙切れが舞う。
中にはほんとウットリするほどの美しいチョコレートがいる。残念だけど、あんた達はこれからあたしに食されるのです。
その時だった。いつもの憎まれ口が飛んできたのは。
「自分で食うのかよ。いじきたねーヤツ」
呆れてるのか馬鹿にしているのか、ニヤニヤしながら。コイツ、ほんと人の気も知らないで。
あたしたちは、正確にはあたしがぎゃあぎゃあと騒がしく、相方は極めてサラッと、悪態合戦を繰り広げた。
本当に腹が立つ! 八つ当たりだけど、あんたが悪いんだー! このやろー!
あたしはただ日頃の感謝の気持ちとして食べてもらいたかっただけで……あれ。
そっか、そんな簡単な理由だったのに。
相方がなんか一気に言ってたけどあたしの耳には、
「食ってやるよ、文句あるか?」
言い終わったそれしか届かなかった。
相方は無愛想にもくもく食べていた。あたしはただそれをぽかんと見上げるばかり。
そのあと不機嫌そうに出て行った。見事、完食。あたしに食べられる運命にあったチョコたちは、土壇場で見事目的地に到達したわけなのです。
「ちょっとくらい、喜んでくれてもいいのにさ」
自分用のチョコを、わざわざ“星の魔術師”にちなんだ星型になんてするわけないじゃないか。
気付け、鈍感。ばーか。