休息時間

村の外れにある廃墟は、ただそこにあるだけで人を寄せ付けない。
彼は、そんなところが気に入ったのだろうかとユティアは思った。
視線の先には、外壁に身を預け静かに寝息をたてるテイルの姿があった。

それは極めて珍しい光景だった。
何故なら、彼は決して人に無防備な姿をさらす真似はしない。常に感覚を研ぎ澄まし、気配を敏感に察し、必要がないような場面でも警戒を解くような人間ではないからだ。
しかし、よくよく見ると無防備というわけでもないようだ。眠眠っている今なお、ダガーを握っている。

特に理由があったわけでもなく、ただ村の人々にどことなく疎まれているこの廃墟のことが少し気になって見に来ただけだった。だから、眠るテイルの姿を見つけたのは偶然にすぎない。
しかし、もうそこそこの付き合いになるにもかかわらず、普段どこで何をしているか等、テイルの事を何も知らなかったユティアにとっては喜ばしい偶然だった。ほんの少しだけ、彼を知ることができた気がしたのだ。何故だか自然に笑みがこぼれる。陰に覗く刃からすれば、決して微笑ましい光景ではないはずなのだが。

ふわりとユティアの纏うヴェールが揺れる。少し肌寒い風が駆け抜けた。
外で眠るには適した季節とは言い難い。そして太陽は沈みゆき、空を紅く照らす時刻。
テイルは恐らく一人でいるのが一番落ち着くのだろうとは思うのだが、このままでは体を冷やしてしまう。特に、テイルはどこか自身をあまり大事にしないきらいがあるようにユティアは感じていた。
起こすか、それとも何か掛けるものを持ってくるか。彼の性格を考え、かけるものの方へと天秤は傾いた。
余計な事をと突き放されるとわかっていても、おせっかいだと思いつつも、ユティアは走った。

数分後、毛布を抱え慌てて戻ったユティアの目に飛び込んだのは、予想もしていない光景だった。
野良猫だった。野良猫が、テイルの傍らに寄り添うように丸くなって眠っている。
テイルは何かの気配にはひどく敏感であり、そして決して寄せ付けない。それは人であろうが魔物であろうが動物であろうが問わない、そう思っていたのだが。
たかが野良猫の接近を許してしまうほど、彼はひどく疲れているのだろうか? それとも、あるいは。

いずれにせよ、微笑ましい光景ではあるが、その小さな温もりだけでは暖というには心許ない。
ユティアは眠る彼らに小さく微笑みながら、起こさないようにそっと毛布をかけようとした、その時──気配を察したテイルが、閃光のような速さで背後に回り込む。ユティアは後ろ手に捉えられ壁へ押しつけられた挙句、身動き一つ取れない首元へダガーを突きつけられた。
ひやりとした刃は頚動脈の位置へ正確に添えられ、毛布はゆっくりと地面へと舞い、驚いた野良猫は我先にと一目散に逃げ出した。
一瞬の出来事に何が起こったかわからず顔面蒼白のまま目をぐるぐるさせたユティアに、テイルはそのままの体勢で、いつもより少しばかりゆっくりめの口調で、

「……なんだ、お前か……」

とだけつぶやいた。