[SS]朝の儀式

フェリードにある聖フェルミナ学園の学生寮の朝。ある一室にて。

けたたましく鳴り響く目覚し時計を止め、時刻を確認する。登校2時間前だ。まだ目覚めたばかりの赤色の目を軽く擦り、軽く伸びをし、カーテンをざっと開ける。青空が広がり、朝日が差し込む。いい天気だ。鳥も気持ち良さそうに鳴いている。少々夢見が悪かったが、それさえも覆す爽やかな日光を暫し浴びる。
本当はこのままもう少し朝の余韻に浸りたいが、そういうわけにもいかない。

寮生活を義務付けられているこの学園だが、願書を出したタイミングの関係なのか、相部屋の相手は共に入学をした幼馴染だった。
入学前から、いやもっと昔、幼い頃から諸々の都合で共に暮らしていたので、幼馴染と言うよりは兄弟のような感覚だ。
入学して早三年。今では二人は生徒会長と問題児という両極端な学園生活を送るようになり、他の生徒からは「会長は不良と同じ部屋で毎朝大変そう」だの「きっと会長が不良を更生させているんだ」といった、決して気分がいいとは言えない話がたまに出たりもするが、赤の他人には知られると面倒なことも色々あるので、この部屋割りには助けられている。というか、付き合い自体は入学前から今に至るまで全く変わっていないので正直気が楽だ。

彼の朝はまだ夢の中であろう相方を起こすことから始まる。
「おい、起きろ。朝だ」
「んー」

相方の返事を確認すると彼は台所へと向かう。
勿論これで起きるはずがないのはいつもの事としてわかっている。昨夜は遅くまで一緒に宿題をしてたっけ、というか付き合わせていたっけ。もう少し寝かしてやるか、そう思いながら朝食の準備をする。トーストと目玉焼きだ。
「不良を更生させている、か……まあ、そう見えるよな」
パンの焼きあがる匂いと、フライパンに広がる卵の焼ける音。今日はいつもより色も形もいい塩梅に出来ている。皿に適当に盛り付け終わった後に、彼は相方に二度目の起きろコールをしに行く事になる。

「おい、朝食出来たぞ。起きろ、起きて食え」
「おー……」
「先食ってるからな」
「起きてる、すぐ行く……」
声色からしてもどう考えてもまだ夢の中に片足を突っ込んでる。というか、言った傍から毛布に包まって丸くなっている。いくら徹夜したとはいえ、このままでは折角の絶品のトーストと目玉焼きが冷めてしまう。
だが、想定内だ。
仕方なしに朝食を一人食べることにする。
寮にも学生新聞とやらが届くが、一応習慣として目を通しても大して興味もなければ頭に入るわけでもない。だが時折見かける動物ニュース等にはどうしても惹かれてしまう。行方不明になっていた飼い犬が三年ぶりに無事飼い主の元へ戻ってきたらしい。そんな記事に夢中になっていると、気が付けば時計の針は大分進んでいた。相方は起きてくる気配がない。ため息をつきつつ、三度目の起きろコールの発動だ。

「おい、いつまで寝てる気だ。遅刻すんぞ」
「……」
丸まっている布の塊を足蹴にして起こしにかかった。
そうでもしなきゃ起きない。そうしても起きない可能性だってある。
「いつまでぐだぐだしてんだ、何だかんだでまだ皆勤なんだろ」
「うっさいな、起きてるっつってんだろ」
「さっさと飯食えよ」
明らかに不機嫌な声、ゆっくりの動作。ようやく相方は布の塊から抜け出し、身を起こした。やっと起きたか、そんなに眠いなら夜さっさと寝りゃいいのに。そう思いながら背を向けたが、ここで安心しちゃいけない。油断しちゃいけない、あいつの行動は俺が一番わかってるんだ。

振り返った。
やはり寝ていた。
気持ち良さそうにすやすやと。

仕方がない、と実力行使に出た。
布団を引っぺがし首根っこをつかんでベッドから無理やり引きずり出す。
「いい加減にしろよ! お前それでも……生徒会長か!」
引っぺがされた側は負けじと毛布を奪い返そうとする。
「んあ~~眠い嫌だ眠いー」
「ほら顔洗え、そんで……とりあえず顔洗え」
「嫌だー」
「洗え!」

このぐだぐだとしている方が信じられない事にこの学園の生徒会長だ。成績優秀、無遅刻無欠席を誇る優等生。らしい。
一方の彼は、信じられない事にこの学園では避けられがちな問題児・不良として通っている。とはいえ、それも彼の不器用な性格が招いた誤解であったりもするのだが。

「お前知ってんのか、噂ではお前が俺を更生……とかさせてるらしいんだぞ」
「そうなのか。俺すごいな……流石俺だな」
生徒会長様はまだ寝ぼけ半分で座り込んで、適当なことを言っている。こんな姿を見たら教師陣や他のヤツらは一体どう思うだろうか。
「ったく、この朝以外はほんとに真似しようとしても真似できねーような生活してるってのに……」
彼は呆れつつも、ほんの少しの優越感と、この何年経っても生徒会長になっても、根っこの部分が昔と全く変わらない幼馴染の姿に、若干の安心さえも感じていた。
が、すぐに我に返った。
目の前の幼馴染が座り込んだままウトウトして動かない。
「起きろ!」
頭をひっぱたいた。

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