[SS]まだ見ぬ優しいその色を

「マサムネ、これ何だと思う?」
いつになく上機嫌なミリエナが得意げな顔で後ろ手に何かを隠し持っている。
見せてもらわねば何だもなく、反応に困って言葉を探していると、ミリエナは後ろ手をゆっくりと引き抜き、それから「じゃーん」の掛け声とともに一気に掲げた。
苗木だった。
マサムネは驚いた。異国の地であるここで、まさか故郷の苗木を見る日が訪れようとは。

「ふふーん、やっぱり驚いたわね?」
「それ……何処で、どうしたんだい?」
「知りたい?」
知りたいから聞いているというのに。ミリエナはこうして勿体を付ける癖があった。
とはいえそれも嫌だとは思わないので、是非ともと乞う。するとミリエナは思惑通りと言わんばかりの笑みを見せた。
「港の近くで物産展やってたのよ。イズルビのものがたっくさん」
「物産展……そんなのが」
「マサムネも行きたかった?」
「いや、私は別に……」
故郷の物産展、興味がないわけではなかったが、飛びつくほどでもないのは本当だった。とはいえ呼んでくれてもよかったのに。と少しだけ不服に思いつつも、気にしない素振りを見せながら彼女の話に耳を傾ける。
「ごめんね。でもあたしだって偶然見かけただけだし、こんな辺鄙な村でそんなのあるとは思わないじゃない。それに、この苗木を見つけた時に、アナタを驚かせたら面白いんじゃないかしらって思ったのよ。ずっと前に言ってたでしょ、故郷の花の話。淡いピンクに光る花だったかしら? 思い出して、見たくなったのよね。だから買っちゃったわ」

ミリエナは苗木を両手に大切そうに抱え、いろんな角度からその枝を眺めていた。
それから暫く辺りをきょろきょろと見渡すと、寂れた空間を見つけ、指さした。
「あそこに植えましょうよ。あの辺りだけ木も花もなくてなんだか寂しいし」
「ああ、そうしよう」

言われるままにマサムネは穴を掘り、そっと苗木を植える。
ミリエナは後ろからまるで子供のように好奇心旺盛な目でその様子をじっと見つめていた。
「ねえ、聞いていい?」
「どうぞ」
「その木、どのくらい大きくなるの? どれくらいで花が咲く?」
どのくらいで──マサムネは一瞬言葉に詰まった。
ミリエナはかなり特殊な運命の中にあった。医と薬の女神の試練だとか、王国の呪いだとか、マサムネには理解しがたい様々な要素があるらしいのだが、わかっている事はミリエナには残された時間は最早格段に少ないという事。この木が育ち花をつける頃には……浮かんだ嫌な考えを払拭するようにしてその問いに答える。
「五年くらい、かな」
「五年かあ」
ミリエナは特に気にする素振りもなく、マサムネの隣にしゃがみ、幸せそうに頬杖をついて、先程とは違う優しい眼差しを苗木に向けている。未だ見ぬ五年後に想いを馳せているようだった。
マサムネは少しだけ考えてから、出来る限り自然になるように何度も頭で言葉を選んでから、言った。

「……今すぐがいいなら、行くかい?」
と言ったすぐ後に、我ながら随分と言葉が足りないんじゃないかと思ったが、ミリエナはただ、
「どうして?」
とだけ、視線は苗木に向けられたままに。
普段からわかりきった事にさえ勿体を付けたりいちいち聞いたりする癖に、こんな時ばかり、何を、何しに、何処へ、それすらも吹っ飛ばしてマサムネの心の奥底を汲み取る。そして答えられないのをわかっていて意地悪く「どうして」と聞き返すのだ。
「いや、何でも。この木が付ける花を、皆で一緒に見ような」
「皆……そっか、そうねえ。五年だったら、子供たちも五歳になっているのよね。ふふっ」
楽しみね、と微笑むミリエナに、マサムネはそうだなと精一杯の笑顔を向けた。

光る桃色の花びらの舞う中、空と同じ色をした髪を靡かせはしゃぐ愛しい三人の姿を想像した。
青と桃が柔らかく溶け合い、それはそれは優しい色を紡ぐのだろう。
どうかその光景を見せてくれ。この目に焼き付けさせてくれ。
まだ細い小さな苗木に儚い幻影を被せた。

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