[SS]古い教会で

夕日を浴びてきらきらとした古ぼけたステンドグラスから暖かい光が差し込む。
そんな光を浴びていながら間抜けな顔をした私は、彼の目にはどのように映ってるんだろう。
いつもはすぐに目をそらすのに、今は私の目をまっすぐ捉えたまま。
私の頭の中は、言いたい言葉が沢山浮かんではふらふらと駆け巡っている。
「ヒュウくん、あの」
そしてやっと出た言葉は、
「ごめんね……」
「あ……」
私の言葉を聞いたヒュウくんはパッと目をそらした。

「はは、あはは……うん、何か……困らせてしまったみたいでその……いや今のは忘」
やや自嘲気味に笑う彼に私は首を振り、目の前に小さな皮袋を差し出してそれを制した。
彼の手にその袋を握らせる。金貨の擦れる音がなった。

「これは……お金?」
私は黙って頷く。
「あのね、私ホントはもうとっくに借りてたお金、いつでも返すことができてたんだ。でもワザと渡さなかったの。ごめんね」
「え……キーリ?」
ヒュウくんは何が何だかわからないって顔してる。
私はそのまま続けた。
「ホントはちゃんと返さないとって思ってたんだけど、お金返し終わったら……もう会えないと思ったから。だから」
「え……?」
「私はずっと一人だったし、慣れてるから一人になっても寂しくも何ともないと思ってたんだけど、でもお金返し終わって離れ離れになった時、会えなくなるって事もそうだけど、いつかヒュウくんにも忘れられちゃうのかなって思ったら、なんか……」
「……」
「いつもの私だったら、すぐにお金なんて返してまた新しい土地に旅立ってるはずなのにね。なんでだろ……ヒュウくんといると毎日楽しくて楽しくて」
私は続けた。なんだか上手くしゃべれない。
ヒュウくんは黙って聞いてくれていた。

毎日楽しくて。それっきりにしたくなくて。
いつもの何気ない笑顔も、自転車の後ろで感じた風の心地よさも、美味しかったご飯も、怪我した時に本気で叱ってくれた時の言葉も、私の無事を喜んでくれた涙も、みんないつのまにかとても大切なものになっていたみたいで。
私が知らなかった楽しいことを沢山教えてくれて、私が知らなかった人の優しさを教えてくれて、私が知らなかった一人の寂しさを教えてくれた人に、忘れられるのがどうしても嫌だったんだ。
なのにこうしてはっきりとした言葉を貰うまで、ヒュウくんの気持ちどころか、自分の本当の気持ちにさえ気付けなかった私はどんなに鈍感なんだろう。

「ねぇ、これからはお金とか、そういうの何もなくても一緒にいてくれるってことだよね? これからも傍にいてもいいって、そういうこと言ってくれてるんだよね? ……違う?」
私は思い切って顔を上げる。
その時見た、見慣れたはずのその照れた笑顔を、きっと私は一生忘れない。

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