[SS]銀色の絆
解放軍のリーダーである少女が王となったこの日、戴冠式を終えた場内では盛大な祝賀会が開かれ、喜びの声と涙、安堵のため息、新しい王の誕生を祝う演奏などで溢れている。
一方その頃、その城の閑散とした屋上に一人の騎士がいた。彼は戴冠式を見届けた後、同僚には少し歩いてくるとだけ告げ、祝賀会を抜け出し一人でここへやってきた。
屋上から見る景色は、ほんの少し前の激しい最後の戦を痛々しく思い出させる。
見上げてみると、戦など信じられないくらい澄んだ青が広がっていた。
彼の騎士服のベルトに備え付けられたポーチには、ずっと彼の親友が身につけていた1つのペンダントが入れてある。戦が終わるまではと、もうずっと見ないようにしていたそれを取り出す。てのひらの上で銀色に輝くその小さな塊は、決して高価な金属ではなかった。三日月のように一ヶ所だけ欠けた輪の中に細い直線と曲線が入り混じる、不可解なデザインのこのペンダントヘッドは世界に1つしかない。細工が得意だった親友の手作りのものだった。
ペンダントの鎖を掴み、改めてその細工の作りをよく見る。こんな複雑なものよく作ったものだ。目の高さに垂らされたその細工は自然とゆらゆら揺れ、そのタイミングで陽の光をキラキラと反射させる。
「見てくれよ、このペンダント。俺の手作りなんだぜ!すごいだろ?」
自慢げに完成したばかりのそれを見せに来た親友の姿を思い出す。
「へぇ、すごいじゃないか…ヘイムに細工の才能があったなんて知らなかったな」
手渡されたそれを今の自分と同じように持ち、色々な角度から見ていた。
「だろ?驚きだろ?安物の金属でだけど、磨けばそれだってかなり綺麗になるもんだ」
「…にしても、変な形だなこれ…何?」
「へ、変な形言うな!いいだろ?ただ適当に考えたわけじゃないんだぜ?」
「ふーん、なんか意味でもあるのか?」
パッと垂らしたペンダントを奪い返され、親友は待ってましたと言わんばかりに、
「まーったく、やっぱり鈍感だなお前は!サラなんてすぐわかってたのによ~」
そう言ってノロケ半分にその形の意味を聞かされた。
「よーく見てみろよ?この直線が俺、ヘイムの“H”。この曲線がだな、サラの“S”だ」
と、その形状を説明するように指でラインを描いたあと、いつものように両手を腰に添え得意げに笑う。
「どうだ!?固く結ばれた俺たちを表してるって訳だ!一瞬の隙もないこのデザイン!俺って天才だと思うね!」
本当にバカな奴だなあ、だけど確かに本当にあの二人はとても仲が良かったなと当時の事を思い出しふっと笑う。その直後に言い様のない寂しさがこみ上げてくる。 今日という日を共に喜び合うはずだった“H”も“S”も、もうこの世にはいない。
ペンダントを再びポーチに仕舞おうとした時、ふとこのデザインについて疑問に思った。この頭文字たちを囲う輪は、何故欠けているんだ?
“固く結ばれている”のなら、輪は閉じてあるほうが自然ではなかろうか。別に意味はないのか?
そのペンダントをもう一度てのひらに乗せる。“S”の意味する曲線がきちんと“S”に見える方が表だろう。
その欠けた輪は右側に隙間がある。直後、その形の意味することに思い当たった。
まさかそんなこと、あいつは微塵も言ってなかったけど。それを確認することなど、もう出来ないのだけれど。これはただの輪などではなく……、
「…俺の………“C”……?」
解放軍に加わってから、何を失っても決して涙を見せることはなかった。
しかしこの大きな戦に1つの終止符が打たれた今だから、この感情を堪える事が出来なかったのかもしれない。
――固く結ばれた俺たちを表してるって訳だ!――
得意げに笑う親友の姿がそのペンダントに重なって浮かんだ。
彼はそれをぎゅっと固く固く握り締めた。
「なぁカークス、俺達勝てるよな……」
彼を失った戦の前夜を思い出す。その時自分は何と答えたか思い出せない。しかし今なら言える。俺達、勝ったんだよ。
長く辛く、激しい戦が終わりを告げ、新しい時代がこの日から始まる。
悲しい出来事など遠い夢の世界の事のように思わせる、その美しすぎる青に向かって呟いた。
「見えているだろう?我らが王の姿が」
その言葉に答えるかのような暖かい風が辺りを優しく包んだ。
光輝く新たな王の誕生を、きっと共に喜んでくれていることだろう。
ああ、今日という日が雲ひとつない青空で本当に良かった。