[SS]はんぶんこ

少女の手から受け取ったそれから放たれる甘い林檎とバターの香りが部屋中に満ちている。
乾いた大地に生まれ育った青年は、この瑞々しく潤った果実が幼い頃から好きだった。
つややかなバターが光る焼き林檎。
この突然の贈り物に青年は些か驚いたが、続いて少女から向けられた自分へ祝福の言葉を頭の中で繰り返し一秒、ああそういえばもうそんな季節になったかと感謝と共に微笑んだ。

生まれてくれて、生きててくれてありがとう──か。
そんなのこっちの台詞なのに。
わかっているのだろうか? お前の存在が今までどれほど俺を救っているのか。
感謝しているのは俺の方だということを。
言葉にこそしなかったが、無邪気に微笑む少女の頭をくしゃりと二、三度撫でる。これで通じてくれるだろうか、そんなこと不安に思うまでもない。

青年は持っていたナイフで林檎を真中から二つに。そして片方を少女にと差し向けた。
少女は目を丸くしながら、
「ロイへの誕生日プレゼントだから、全部食べてもいいんだよ?」
頬を染めつつそう言うが、そんな表情から察するに、林檎の甘い誘惑に食欲が刺激されているに違いない。
少女のそんなに食いしん坊にみえるかな、と拗ねた仕草がおかしくて青年は自然に笑みがこぼれる。
「こうしたほうが美味いんだ」

はるか昔のいつかの季節にも、こんな風に一つの林檎を分けたことがある。
繰り返すことのできる幸福をかみしめつつ、青年はこの温かな贈り物を頬張った。

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