[SS]何度でもまた

「これを」

突然少年が差し出した手に対し、子供は不思議そうに小首を傾げつつそれを受け取った。
小さな手、その中には真っ白な羽に木製のビーズの装飾が数点ついたお守りがあった。
「羽だ!」
国内でも恐らく屈指の白さのその羽に、子供は真上に輝く太陽よりも眩しい笑顔を見せた。
「こんなに真っ白いの見たこと無いよ! ホントに貰っちゃって良いの?」
嘘のないきらきらとした瞳。本当に喜んでくれていることがわかり、少年は軽く目を細め頷いた。
「そのために探したんだ」
子供は白い羽のお守りを、色んな角度から覗いてみたり、紐部分を吊り下げて眺めてみたり、手の平に置いて軽く触ってみるなどして楽しんだ後、大事な羽が潰れないようにそっと手で包み、いつもの気の抜けるような笑顔で言った。
「ありがとう、ロイ! 大事にする!」
「ああ」
少年はその笑顔が見ることが出来ただけでも満足してしまいそうになったが、本当に伝えたい事はまだ一言も言っていない。

ここ砂漠の国では、白い羽には特別な意味があった。
旅人には進むべき道へと、迷い人には戻るべき道へと導くものであると伝わっている。
その由来などは凡そ二百頁程の物語で存在し、それを語る事も出来るのだが、しかし今日の少年は別にそれを伝えたいわけではない。

「アル」
「うん?」
一呼吸おいて、少年は口を開いた。
「俺はこの年になるまで“友達”というものを知らなかった」
四つも年下の子供に言う事でもないかもしれない。そう思いつつ少年は、それでも。
「アル、お前が初めての友達であり、特別な存在だ。これはもう揺るぎない事実で」
ひとつひとつゆっくりと言葉を選ぶ少年を、きょとんとしながら子供は見つめる。
「もしも」
他人が見れば顔をしかめるほど表情も声の抑揚も一定。
だがそんな不器用な少年を理解している子供は、頷くことで言葉を促す。
「いつかお互い離れ離れになったとしても、これから先、別の友達が出来たとしても……」
大きな戦が控えているこの国の王族の少年と、遊牧の民であるこの子供。
過ごせる時間は、恐らくは、少なくとも自分が望むほどもう長くはないことを少年は理解していた。
続きの言葉を探し言葉に詰まる、そんな僅かな沈黙の間を、砂の音がさらさらと優しく埋める。
「……例え長い時間がお互いの事を忘れてさせてしまったとしても、お互いの姿が変わったとしても」
一瞬見せた、子供の淋しさを含んだ表情が少年に突き刺さる。
選ぶ言葉を誤ったか、気持ちを伝えるということがどうにも苦手な少年は、しかし風に背を押されるがまま一歩前へ。

「俺は必ず、どんな形ででも、またアルに会いたい」

白い羽を包んだ子供の手が、少年の両手でさらに覆われる。
少し驚いた子供は目を丸くして見上げる。
「この羽がきっと叶えてくれる。そうすれば──」
思い当たった子供は、再びぱっと明るい笑顔になりすぐさま応えた。
「そうすれば、また何度でも友達だ! ずっと友達だね!」
言いたかった言葉を笑顔で奪われた少年だったが、伝えたかった気持ちがまだ幼いこの友達にきちんと伝わった嬉しさと安堵に思わず表情が綻ぶ。
「ああ。ずっと、何度でもだ」

砂漠の丘に笑顔が二つ。交わされたのは約束にもならないただの言葉。
砂と風と白い羽の導きが果たされるのはこれから何年も後のこと。


関連:白い羽のお守り(@ろく様)

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